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2013.10.27

なぜ変わらないのか

言語は社会の変化に対応して常に変わる。謡曲の詞は現代人にはまず理解されない。今は世界の繋がりが強まり技術革新のテンポも上がっているため言葉の変化も早くなっている。その事情はどの言語でも同じ。急速に変化している現代の英語について翻訳会社で校正をする女性が小文を書いていた(http://goo.gl/tw4PP1)。

その中で彼女は「単語は変わるが不思議に文の構造はなかなか変わらない」と書いている。その通りなのだ。時代につれて言葉が変わると言っても、変化は主として用語・単語についてであって、文の構造は変わっていない。「不思議に」と書くが、彼女はそれ以上にこの話を追求していない。こちらはそこで立ち止まった。何故変わらないのか。言葉を扱う仕事をするようになってこのことに気付いてはいたが、その理由まで突き詰めて考えたことはなかった。どうしてなのか。頭の体操に考えてみた。

文の構造が意識されるのは、当然のこと複数の単語が組み合わされてからである。使われる単語の数が多くなるほど複雑な内容が表現できる。しかし一連の単語を理解するためには何らかの決まりが要る。

その決まりは、単語の並べ方や、その前後に付けるもの、あるいは単語そのものの活用について定めたもので、つまりは文法なのである。その詳しい内容は文法書の目次で一目瞭然であるが、たとえば

主体、客体に関する規則
叙述に関する規則(動詞、形容詞)
品詞に関する規則(名詞、動詞、形容詞、副詞)
活用、前置詞・後置詞に関する規則
位置に関する規則(動詞の位置、関係語の近接)
疑問や否定を表現する規則
現在過去未来を表現する規則
単数複数を表現する規則
論理的つながりを表現する規則

などがあるし、5W1Hの要素(いつ、どこで、誰が、何を、どうした。そしてどのように。)の配置の規則もある。文の構造を意識するということは文法を考えるのとほぼ同じことになる。

このような規則を皆が共有していれば、特定の単語が分らなくても前後の関係から意味が分る。例えば日本語でありながら「スタイリッシュなパフォーマーがエレガントにプレイする。」などというカタカナ語ばかりの文も、適切に配置されていれば分ってしまう。

つまり未知の単語が出てきても、そこに「てにをは」のような助詞がつくのか、あるいは形容動詞の「な」や動詞の「する」などの活用語尾がつくのかというようなことから、少なくともその未知の単語の品詞は推測できる。また文章構造が維持されていれば、その単語がどこに配されているかによっても品詞が推測できる。そして推測可能という特性により、新しい用語を日本語なり英語なりの言語体系の中に取り込むことができるのである。

ではもう一度問うて見る。何故文の構造が変わりにくいのか。恐らく次のようなことではないのか。

(1)相手の話すことが分るためには、文の構造(文法)について話し手と聞き手の両方が同じように理解していなければならない。もう少し一般化すれば、情報を伝達しそれを相手が了解するには、その情報を扱う人々(つまりその言語を話す人々)が一定の決まりに従わなければならないと言うことになる。

それは暗号でのやり取りで送信側と受信側が同じ乱数表を持つようなもの。お互いに同一の乱数表を手にしているから言語コミュニケーションが成立する。文の構造を変えるというのは乱数表を取り替えることと同じで、それではメッセージの解読ができなくなる。

(2)文法も起源に遡れば自然に発生したものであろう。ということはその規則が無理がなく合理的であったということになる。また多くの人々が長い時間使って合理的になったという面もある。無理な決まりはその社会では廃棄され、無理なく合理的なものだけが残る。

(3)言葉に関する決まりが簡単に変わらないのには、言語と思考の循環と言う特別な関係によるところがある。つまり言語は思考の土台になっているのである。擬人的になるが、思考の土台となっている言語を覆すような思考を、その言語が許すことはあり得ないとも考えられる。

以上のような事情を考えると「文の構造はなかなか変わらない」のは不思議なことではない。変わりにくい原理を内包しているのである。

成る程そういうことか。数日間頭の体操をした結果である。


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