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2015.01.03

わかりにくい原文

ある商業施設の賃貸借契約書が翻訳されていて、その校正の仕事が回ってきたが、思いがけず時間がかかっている。かなりの分量があるというだけではない。出来上がったものは一応日本語で書かれているが、読んでみても全く頭に入らず、一文を点検するのにも随分時間がかかるのである。

それは何故なのか。原文の問題、訳文の問題が重なっているが、根本的な原因は原文の側にありそうである。

まずは原文の内容の問題がある。この賃貸契約書はスコットランドの法制を前提に書かれており、その考え方や術語を頭に入れ、何の話をしているのかを理解しないと誤訳になる。辞書をひいただけでは単語の意味を確定できない。

例えばIrritancyという単語には、大きな辞書では刺激性という訳語が充てられているが、法律に刺激性ではおかしい。最終的にはスコットランド1985年改正法(雑則)の中の賃貸借に関する条文を当たり、契約解除であることを確認しなければならない。

さらに最近これに関して注目すべき判決が出ていて、それが契約書の文言にも反映している。従ってその判決文や解説も目を通さねばならない。翻訳をされた方は相当に苦労したと思うが、やや調査が足りなかった。

内容ではなく、原文の表記の問題もある。例えば類似のものを併記するときに必要なカンマがない。そのため英語がわかりにくくなっている。まあ慣れればそれでも対処できるが。

もっと問題なのは、一文が長いことである。ある文に含まれる単語を数えると236語もある。一般に読み易い英文は20語以内と言われていることからすると、これは長すぎる。文末に辿り着いたときには、冒頭で言われていたことを忘れている。あちこちの法文や契約書から類似表現を寄せ集め、気がついたらこれだけの長さになっていたのかもしれない。

しかし長い文章でも書き方次第では、正確に理解してもらえる。なかなか句点の出てこない江戸時代や明治初期の文章も、思考の順番に書かれていれば正確に読むことができる。一文の中は一種の連結列車のようなもので、文節要素が客車のように繋がっている。それが思考の順番に出てくれば、長文でも問題なく理解できるのである。それはどの言語でも同じこと。

そういう意味では、この契約書の英語の一番の問題は、各要素が提示される順番がよく考えられていないことである。英文は一般に最初に中心になる言葉を出し、そのあとで関係代名詞を使い補足的な情報を付加していくことが多いが、その連結車両の順番が何となくおかしい。また修飾節が修飾されるものと離れたところに出てくるので、これも理解を困難にしている。

正直のところ、これほどに長くかつわかりにくい文が頻出する契約文書にはなかなかお目にかからない。翻訳をした方は相当苦戦されている。出来上がった訳文は当然ながら何を言っているのか分からない。結局もう一度訳しなおすということになり、年末年始はこの手直しで終わろうとしている。


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