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2009.03.14

看板

好天の週末というとあちらこちらからチェーンソーのエンジンの音が聞こえてくる。近所の農家の男たちが何人かで、農地の周りの土手の木を伐採し、小枝を燃やし、新しい季節に備えているのである。幹の木や太い枝はしばらくそのまま乾燥させて、その後小割にしてさらに乾かし、いずれ暖炉で燃やすことになる。

シンガポールの林君と話をする。創立から日の浅い翻訳会社のコーディネーターで、彼もまだ若い。シンガポールのデザイン学校で学び、兵役を終えて、マレーシア、タイ、日本、スーダンを巡っている。日本では3ヶ月岐阜にいたという。若いけれども既に外の経験をしている。

その彼が、アジアの翻訳会社は欧米の翻訳者から余り信用されていないから、という。それで、そんなことはないよ、アジアでも良い会社があるし、欧米の会社でも信用できないところはたくさんあるさ、と元気付ける(まあ東南アジアからの仕事は単価が安いが)。地域や国で一括しないで、個別の会社、さらには個別の人を見て仕事をしないといけない、看板で判断してはいけないと思うよ。そんな話をした。

そもそも、看板に疑問を感じ始めたのはいつの頃か。振り返れば、大手の会計事務所の人たちと接した頃かもしれない。彼らはいつも決算の会計監査に7、8人で来る。半期決算にも小規模になるがやって来る。チームは責任者から会計士になりたての兄さんまでいる。どこの組織も同じこと、勘のいい会計士もいればそうでない人もいる。

彼らと話をしているうちに、大組織をその名前だけで信頼してはならないと気がついた。具体的な案件を扱う者がミスをすればそれまでのこと。組織であればある程度のチェックが働くかもしれないが、決して万全ではない。大手の監査法人に任せてあるから大丈夫とは言えないのである。

雑誌などに執筆をして活躍中の会計士の履歴を見ていて、最初大手に勤めてその後独立する人が多いことにも気がついた。元々資格を得ようとするのは独立の気概を持つ人たちなので当然かもしれないが、目端の利く人はある程度のところで個人事務所を開業して、大手監査法人は意外に中間部が薄く、新米に依存しているのかもしれないと思ったのである。

看板で判断してはいけないと言うときには2つの側面がある。上の話は看板があると言ってもその実態が危うい場合も多々あるということ。しかしもう1つある。それは看板を頼ることが判断の根拠にはならないという論理的な問題である。

これも同じ頃の話であるが、あるとき、外貨がらみのスキームについて財務会計と税務会計の両方の観点から打合せの会があった。事案は主に財務の問題であるが、こちらも税務として一応確認を求められたということであったと思う。


財務のことではあるが、ある点について納得がいかないので質問をした。すると○君が「会計士に確認しました」と言った。そこで「それでは権威に頼っただけで説明にならない」と更に論拠を出すよう求めたのであるが、○君は会計士がいいと言っているので大丈夫ですと繰り返すばかりであった。

このときに彼がどのような説明をすべきなのか、今ならもう少し上手に納得させることができるであろう。スキームに問題がないか検討するとは、法規に適合しているかを確認することである。具体的にこの事案なら、証券取引法(当時)があり、それを補足する政令があり、さらにその下の省令である財務諸表規則がある中で、本件はどれに関係し、それらの規定に抵触していないことを述べればいいのである。権威者がいいと言ったかどうかは論証の本体ではなく、付随情報にすぎない。

担当者はそこまで確認する責任がある。専門家のお墨付きを得ました、で済ませてはならない。担当者だけではなく、組織全体として法令に従っていることを説明する義務がある。トップも普段は下僚や専門家に任せておいてそこまで知らないかもしれないが、いざとなればきちんと調べてそれを理解して、対外的に説明せざるを得ない状況になることもある。

振り返れば、権威に頼らず自分で確認するというのは、その頃から自分の中で次第に明確になっていったのかもしれない。まあやりすぎると時間がいくらあっても足りなくなり、餅は餅屋という言葉のようにある程度は任せざるを得ないが。

林君と話したあと、そんなことを思い出した。

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