有難う
お早う、今日は痛みはどう。
だんだん痛くなってきた。お腹と腰骨。それに腸に転移してきたのか、野菜の食物繊維も障るようだね。ご近所も心配してくれているけれど、痛いことは言っていない。余り食べなくなって体重も42キロが40キロになった。がんで痩せてくるのは誰も同じ。まあ85歳半は天から授かった私の寿命さね。
昨夜は痛みで夜中に起きてしまった。それで先生に手紙を書いたの。明日の診察の前に読んでもらおうと思ってね。痛みの緩和のために前回の説明で出てきたモルヒネ系の薬をお願いしたいこと、薬により意識が薄れ自分が自分でなくなっても仕方ないと覚悟していること、このことについては自分だけではなく家族も同意しているということを書いた。先生の治療方針に従わない勝手もお詫びして、平成22年9月29日午前1時30分と日付と時間も添えてある。しっかり書面にしておけば、万一のときに先生が困ることはないだろうよ。
そうだね。まあ家族も同意していれば、医師が訴えられることはまずないのだけれどもね。それから治療方針に反するなどと気を遣う必要はないよ。あくまで医師は患者のために仕事をするのであって、まずは患者の意思が尊重されるべきだと思うよ。
お父さんとのお別れはもう十二分にした。この頃は自分のことは自分でするようになって、随分変わったね。いずれはホームに移ることにも同意してくれた。歳をとってから独り身になって恐いのは火事を出すことだからね。家にずっと居ても所在ないだろうからいつも通り碁に行ったらいいと勧めて、しばらく前に出かけたよ。
後のことは何も心配していない。介護なり入院なり、すべてあなたに任せるからよろしくね。ものの処分はご苦労だけれどお願いします。古い記録などもう捨ててあるから、あとは市役所なり業者にやって貰えばいいの。何人かには49日が過ぎたら連絡の葉書を出して。宛先は机の上にあるよ。
大丈夫。それは残された者の仕事だから気にかけないで。それに大切なものはすべては僕の心のうちに仕舞ってある。お母さんの書いたもので貰っておきたいものがあるかもしれないけれど、それ以外に何も未練はないよ。見られて困るものだけ捨てておいてね。
それより、もしモルヒネの投与ということになれば、お母さんとまともに話をする機会はなくなるよ。ということは、今日こうして話しているのが最後になるかもしれないね。だからいま言っておきたいの。・・・お母さんは僕の中にある、お母さんは僕の中に居てくれる、それは子供たちに伝わり、その先に伝えられ、それぞれの中に生きている。・・・僕はお母さんを尊敬し、息子であることを誇りにしているよ。・・・本当に長い間有難う。
それは私も同じだよ。・・・有難う。あなたがいてくれることがどれだけ励みとなってきたことか。思うこと、感じていることをありのままに話し、あなたと対話することができた。お陰で世界が広がり、開かれたものの見方を教えられた。心から感謝していて思い残すことは何もないよ。・・・本当に有難う。ありがとうね・・・

Comments