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2013.11.20

組織名の英語表現から

日本の組織名を英語でどのように表現しているか見る機会があった。○○西△△というように、まず地域、次に東西南北、そして組織名がくる全国の事例を見たのである。

興味を惹かれたのは真ん中の部分。西はNishiともWestとも表記している。中央ならChuoとCentralの両方の例がある。一般化すれば、音だけで訳す場合と意味で訳す場合とがあるということ。何故両方のやり方があるのかな。

また日本の表現の一部が既に英語になっている事例もある。つまり○○中央△△とするのではなく、最初から○○セントラル△△と表記されるものがかなりある。

さてこれらの観察から何が引き出されるか。

まず何故表記が統一できないのか。英訳であるならばすべて意味訳で統一すれば良い筈である。それなのに何故音訳が生まれるのか。

それは元の語感を残す方が良いこともあると人々が感ずるからではないか。さらに何故そう感じるかと問えば、言葉の属性のあわいが曖昧になることがあるからではないのか。つまり東西南北なり中央という言葉は、単独では方角なり相対位置を示すだけの働きしかしないのが、地名や人名と合わせて使われると癒着が生じて固有名詞の意味合いを帯びてくる。固有名詞に取り込まれてしまうのである。

町村合併で生じた福島県の南相馬市は地理的には相馬市の南にあるが、語感の上では「南相馬+市」であって「南+相馬+市」ではない。英文表記がMinamisoma CityとなりSouth Soma Cityとならないのは、そのような感性が働いているからであろう。

言葉は人々の便宜のために発明される。音訳が便利なこともある。音訳が固有名詞の意味合いを温存するので、そのまま使った方が便利と人は感じた。音訳と意味訳の並存は昔からあったのであるが、それはこのような事情によるのかもしれない。人々の受容の状況まで考えると、全国的に統一するのは難しいことに気付いた。

では次に、最初からの片仮名表記(○○セントラル△△)についてはどう考えるか。こちらは外来語の受容の問題になる。このような事例には日常的に接するようになっているが、人々はそれだけ英語を日本語の中に取り込んだということになるかもしれない。曾ての日本人が漢字を取り込んだように。

注意すべきはこれらの言葉が基本語彙であること。新規技術や新製品のような固有名詞ではない。そこで、数字や東西南北、右左、上下のような基本語彙が英語のままに使われることをどのように見るのかが問われてくる。言語の根幹に近い部分が外国語になっているからである。

基本的な語彙は寿命が長い。山(やま)や川(かわ)や花(はな)といった和語は昔から変わらない。そこで書くものの言語的寿命を長くするためには、新奇な言葉を使わずできるだけ基本語彙を使おうと心掛けることになる。その思いは変わらないが、基本語彙さえ変わりうると知れば、この考えを少し修正する必要があるかもしれない。

一方では言葉の純粋性が失われるとも受け止められるが、実際問題としては言葉の純正を保つことは不可能である。江戸時代までの知識人は漢詩で自らの感懐を述べることができた。しかし明治開化期の文物を漢詩で表現したものを読むと滑稽な感じは否めない。古い言葉が新しい環境に対応できなかったのである(勿論幕末から明治にかけ先達は舶載された新しい概念の造語に苦心したし、久米邦武の米欧回覧実記のように漢語を駆使した格調の高い文章で諸外国の文物を叙した事例もあるが)。また言語原理主義を貫くと、戦時中のカレーを辛味入り汁掛け飯と言い換えたようなことになりかねない。

余り先走って軽薄な言葉遣いをしないよう自戒しなければならないが、多くの人々が新しい言葉を理解できるようになった段階では、それを用いても良いのではないか。万葉の言葉だけで現代の諸事象を表現することは難しい。言葉についてはやや保守的で良いと考えているが、今では正字正仮名、歴史的仮名遣いである必要はないと思っている。それすら何百年で変わっているのであるから。

新しく外から流入する言葉は日本語を豊かにするものとも見られる。古来のひと、ふた、み、よ、いつに、漢語の一、ニ、三、四、五が加わり、今one、two、three、four、fiveが加わったのである。表現の多様性を得たともいえるのではないか。要はそれを使う人々である。古来心ある人々は言葉を磨いてきた。今それを受け継ぐ人々の資質に期待している。

扱った分量が膨大であったために処理に随分時間がかかった。しかしそれを一つずつ点検していると、ふと疑問が湧き上がる。作業を続けているうちに、はたと気付くことがある。それらを一つの紙の上にまとめてみると何がしかの収穫になっていた。


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